仕事中に座ったままできる”シーテッドカーフレイズ”のことを知り、調子に乗って追い込み過ぎてしまい、筋肉痛でしばらく立てなくなってしまう・・・そんな私の日常は・・・、
私は会社と最寄駅の間、約3キロ、時間にして約10分ちょっと(一般的な速度)を、自転車で通勤している。
このショートサーキット(ただの公道)で毎日夕方に熾烈なレースが展開されているのをご存知だろうか?
もちろん知らないだろう、いや、知っていたら私の正体がバレていることになるので、それは非常にマズいことになる。
このレースは一刻も早く駅に着いて、家に帰りたい”キタクニスト”たちがしのぎを削る夕方の祭典である。
このレースにエントリーしている”キタクニスト”は私を含めて4人。
あくまでも私の主観だが、皆、定年間近のおじさんと見た。
しかし、それぞれが、雨の日も、強風の日も、毎日ひたすらにペダルを漕ぎ続ける百戦錬磨の強者どもだ。
互いの素性は知らずとも、
「一刻も早く帰宅したい!」
と、いう熱い思いで私たちはつながっている。
そんじょそこいらの薄っぺらいコミュニケーションとはわけが違う。
ここで誇り高き”キタクニスト”の面々を紹介したい。
あくまでも私の勝手なイメージであることをご理解ください。
”キタクニストNo.1″
”ブルーサンダー”こと職人の源さん。
青の作業服がこれほどに似合う漢を私は知らない。
過酷な現場作業で鍛え抜かれた鋼の肉体は、疲れを知らず、そして、決して妥協を許さない職人魂そのもの力強いペダリングは他を圧倒して寄せ付けない。
しかし、その職人魂が災いして、奥さんは子供を連れて家を出て行ってしまった。
そして、若い職人からも距離を置かれている。
そんな源さんの唯一の楽しみが、近所のスーパーで安い惣菜をつまみに一人手酌で酒を飲むことだ。
”キタクニストNo.2”
”ホワイトヘアデビル”こと窓際の勇さん。
見事なまでの白髪を風になびかせてペダルを漕ぐ姿は、まさに白髪鬼そのもの。
ところどころ、薄毛が目立つが、それこそが彼の長年の苦労を物語っている。
交差点で曲がる時には、律儀にも手を挙げて合図することを忘れない道徳心の塊、その真面目さゆえに出世という名のレースでは大きく出遅れてしまった。
そのせいで、奥さんとの間に埋めがたい溝ができてしまっている。
”キタクニストNo.3”
”ブラウンシュガー”こと垢抜けない修。
一年を通して茶系の服しか着ない、何が彼をそうさせるのかは謎のままだ。
天塩にかけて育てた愛娘が、何処の馬の骨ともわからない男と恋に落ちて家出同然で家を飛び出してしまって、はや四年、そのことが少なからず影響しているのかもしれない。
それでも、残された愛する家族のもとへ一刻も早く帰りたい一念と、その愛情の深さゆえ、信号無視さえも厭わない無謀な行動に出てしまうことがある。
実際に何回か危険な目にも遭っているが、それでも彼は止まらない、愛する家族のため、今日も彼は狂犬と化す。
そして、
”キタクニストNo.4”
”スリム・マスキュラー・ボディ”こと私、妄想さん。
”細マッチョ”になるためには仕事ですら犠牲にする、そのストイックなスタイルはまさに筋トレ男子の鑑。
しかし、その代償として”プロテイン”だ、やれ”EAA”だ、”クレアチン”だ・・・etcと出費がかさみ、日雇い派遣で稼いだ金が右から左に消えてしまい、日々、金欠に喘いでいる。
スタート地点は、国道の交差点。
ここに毎日、同じ時間に全員が集う。
軌跡などではない、これは必然なのだ。
ちなみに、起きないからこその奇跡、一度でも起きてしまえば、それはもう奇跡ではない。
スターティンググリッドについて、レーシングシグナルが青に変わる瞬間を待つ。
互いに目を合わせることはない、が、互いの熱き鼓動はひしひしと感じ取ることできる。
そして、全員の体からは闘志という名の”オーラ”が立ち昇っている、もちろん素人には見えはしない。
しかし、素人が迂闊に近寄れば、その”オーラ”に当てられてその場にへたり込んでしまうことだろう。
・・・!
シグナルが青に変わる、全員が待ち望んだ歓喜の瞬間だ!
私の中途半端に鍛えられた、大腿四頭筋、ハムストリングス、そして腓腹筋が悲鳴を上げつつも歓喜に震える、私は文字通り一陣の風となってサーキットを駆け抜ける。
ギャラリーの歓声も勝利の美酒も何もないこのレース、勝利の暁には尋常ではない疲労感と後悔だけが残る。
今も、肺が悲鳴を上げて、ひりつくように熱い、足は乳酸が溜まり鉛のように重く、心臓は早鐘のように高鳴っている。
どうして、私はそこまでして自転車を漕ぐのだろう?
全力で漕いでも、普通に漕いでも、電車の本数が少ないので乗車する電車の時間は変わらない。
なら・・・、いや、理屈じゃない! これは人生負け組の私にとって、自力で掴める数少ない勝利なのだ。
「くだらない」
と、笑いたければ笑えばいい。
たとえ、どんなにくだらないことだとしても、私は全力を尽くす!
全力を出し惜しみする奴らの戯言など知ったことか!
疲労や後悔など屁でもない、そんなものはほんの一瞬のことに過ぎない、翌日にはまた勝利への飽くなき執念が沸々と体の奥底から湧き上がってくる。
私が社畜である限り、それは延々と続いて行く。
そこに、迷いなどない、あるのは純真無垢な帰宅にかける熱き情熱と、勝利への渇望だけだ。
それが、たとえ、家庭内別居状態の南極よりも寒い家だとしてもだ!!
そして、今日も私は駅の駐輪場への最終コーナーをトップで駆け抜けて、熾烈なレースに終止符を打つ。
疲れた体を引きずるようにして、駐輪場を出る私は、誰に言うでもなくこう呟く、
「ママチャリとは違うのだよ、ママチャリとは!」
本日のBGM : A Perfect Sky / Bonnie Pink
このBGMは、記事の内容とは一切関係ありません。
ただ、書いている時に聴いていた、というだけのことです。

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