圧倒的な力の差を見せつけられる私

私の日常

仕事中に、気分転換のため”ストレッチ”をしようと、立ち上がった瞬間、腰に激痛が走り、その場にうずくまりそうになるが、持てる精神力を総動員して、踏みとどまり、何とかロッカーにたどり着いて、悶絶する・・・そんな私の日常は・・・、

ふとした瞬間、つくづく人は平等ではないと思い知らされる時がある。

特に私のような”ひと山いくら”の凡人であれば尚のこと。

誰にでも、

「何か一つくらいは誇れるものがある」

なんて、気休めにもならない、

「上には上がいるものだ」

だからといって、頂上を目指したいわけではない、

「そこそこ」

でいいのだ。

ほんのちょっとだけ、他より良ければ・・・、それが理想だ。

いきなり、何でこんなことを言い出したか、と言うと、週末の派遣先にとんでもない男がいるからだ。

その男を、私は密かに、

「”しゃあ”」

と、呼んでいる。

「シャアじゃないよ、”しゃあ”だからね」

その名の由来は、

「作業スピードが人の倍は早いからだ」

“しゃあ”は私と同じで、休みなく働いている。

年齢は四十代で、シャンクス顔負けの赤色に髪を染めている。

最初に会った時は、その髪色もあり、三十代前半くらいかと思ってしまった。

要は若々しいということだ。

「羨ましい」

と、本音が出てしまったが、”しゃあ”の凄いところは、そのハイスピードに持久力が備わっていることだ。

短距離走のスプリンターが、そのスピードのままフルマラソンを走っていると思ってもらえれば、その凄さが伝わると思う。

“しゃあ”に出会うまでは、自慢じゃないが、

「妄想さんは仕事が早い」

と、周りから言われて、私もいい気になっていた。

そんな、ちっぽけな自信など跡かともなく吹き飛んでしまった。

さらには、仕事に対する姿勢がまた素晴らしい。

正直、私は時給分の仕事しかしない、あくまで副業と割り切っているからだ・・・が、

「”しゃあ”は違う」

とにかく、自分の最大限の力を余すことなく出す。

それは、仕事の枠を超えて、自分自身への挑戦にも見える。

「時間内にどれだけこなせるか」

“しゃあ”の口ぐせだ。

「素晴らしい」

爪の垢でも煎じて・・・、

「飲むワケないだろう!」

みなさんご存じの通り、自他共に認める”社畜”の私にとって、会社に支障が出るような働き方はできない。

そんなことをしたら、

「仕事中のトレーニングに影響が出るじゃないか!」

と、いうことで、最初っから太刀打ちできる相手ではないということだ。

ただ、あまりの違いに”しゃあ”の作業を観察するも、見るからにハイスピードで動いているわけではない、にも関わらず、あれよあれと、作業をこなしていく姿にただただ脱帽するしかない私が居る。

歳はひとまわり以上下だが、見習うべき点は他にもある。

それは、コミュニケーション能力の高さだ。

社員さんはもちろんのこと、同じ派遣の誰に対しても、気さくに話しかけるし、すぐに溶け込んでしまう。

普通に考えて、四十代の赤髪という、かなりネガティブ要素があるにも関わらずだ。

しかも、さりげない気遣いも完璧にできる。

もう、こうなると、

「欠点がねぇ!」

どうして、こんなに優秀なのに、派遣で生計を立てているのか?

普通に会社に勤めても、バリバリ働きそうなものだが?

その答えは、程なくして判明する。

“しゃあ”は大学卒業後(何と、早稲田!!!)、普通に就職して働いていたが、その会社がブラック企業で、その後、幾つかの職を転々として、現在に至るらしい。

“派遣あるある”ではある。

しかし、現在は就職を考えていないらしい。

その理由が、

「この髪色では就職できない、それと・・・」

と、いうことらしい。

「あっ、そうなんだ」

と、サラッと受け流すしかない。

本心では、

「人生と引き換えにするほど、髪色にこだわる意味がわからない」

それに、コレは口が裂けても言えないが、

「頭頂部、キテますよ」

“しゃあ”は自分で染めているので、髪や、頭皮に優しいとは言い難い。

ちなみに、私が勤める会社の子会社では、

「頭髪は自由だ」

ロン毛も染めた髪でもウェルカムだ。

社内でも、問題視する声は少なくないが、

「仕事に支障が出ない限り問題なし」

の姿勢を、崩さない。

まぁ、冗談抜きでハードな仕事(過去に何人もの死傷者有り)なので、そうでもしないと、若い人が入ってこなくなってしまうからだろう。

“しゃあ”がもう十歳若ければ、スカウトするところだ。

そして、就職を考えてない、もう一つの理由が・・・、

「好きなアーティストを追っかけられなくなる」

「あっ、そうなんだ」

と、また、華麗な身のこなしでかわす私。

“しゃあ”は”あるガールズバンド”(※1)の大ファンで、チケットが取れるなら、北海道であろうと躊躇なく行く。

そして、ライブに行く前は、必ず髪をオレンジに染めて、気合いを入れる。

「ファンとして、コチラの本気を彼女たちに見せる」

だ、そうだ。

「ゴメン、チョット何言ってるのかわからない」

と、私の中の富澤が、そっと顔を出す。

しかし、そんな”しゃあ”の熱きファン魂を垣間見た瞬間がある。

そのバンドが、とあるフェスに出ると決まった時、チケットが取れず、それでも行きたい”しゃあ”は、単発バイトで、フェスのスタッフ募集に応募して仕事をしながら、

「音だけを楽しむ」

と、いう、呆れる熱いファン魂を見せる。 

日々、一生懸命仕事をして、仕事終わりの一杯のビールを楽しみ、年に数回?のライブに全力を注ぎ込む。

「わずかながらの年金を貰う迄は、今のペースで働き続ける自信はあるし、歳をとっても、年齢にあった派遣の仕事はいくらでもありますよ」

“しゃあ”はそう言う。

確かに、幾つもの現場で、

「誰がどう見ても、明らかに高齢者」

と、いう人たちの姿を見る。

「色々な”しがらみ”に囚われて、がんじがらめになっている」

私とは、全く別次元で生きている”しゃあ”を見ると、考えさせられてしまう。

「色々な意味で敵わない」

素直に白旗を上げる私。

しかし、そんな私の心中など知る由もない、”しゃあ”は、

「妄想さんは凄いですよ、その歳でバリバリ働いて、リスペクトですよ」

と、笑顔で言う”しゃあ”の前歯は、

「真ん中の一本がキレイに抜けていた」

注釈

※1インディーズバンドで、ライブハウスを中心に活動している。

メンバーのほとんどが既婚者で、子持ちもいる。

本日のBGM : 自己表現 MySelf / NOVEL

このBGMは、話の内容とは一切関係ありません。

ただ、書いている時に聴いていた、というだけのことです。

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