なんとも不思議なおじさんと遭遇してしまう私。

私の日常

仕事中に、業者さんから『うなぎパイ』の差し入れを頂いた。デスクに置かれた「そいつ」を見た瞬間、口の中一杯に記憶の中の味が広がる。筋トレダイエットを始める前は大好きなお菓子だったので、ハッキリ言って大迷惑ではあるが、ありがたく頂かないわけにはいかない、それが社会人というものだ。だからと言って、おいそれと口にするわけにはいかない。顔では満面の笑顔で感謝の言葉を言いつつも、心の中では激しく舌打ちを漏らす。とにかく、目の前からその存在を消そうと机の引き出しにしまおうとすると、今度は女性社員のAさんが、そっと『六花亭のバターサンド』を机の上に置く。瞬間、満面の笑みで心からの感謝の言葉を言うと、一瞬の遅滞もなく流れるようにコーヒーを入れて大好物の『六花亭バターサンド』を美味しく頂いてしまう、そんな私の日常は・・・、

毎朝同じ時間の電車、同じ車両、同じ座席、いつもと変わらない見知らぬ乗客・・・、

「のハズだった」

その男性は車両連結部の隅の席に座り、首元までタオルケットで体を覆い、アイマスクにイヤフォン、完全に爆睡しているのか、頭を窓に持たせかけている。

そして、その隣の席にはかなり大きめのデイパックが置かれている。

「ここはお前の寝室か!!」

と言いたくなるような完全に『自宅モードのおじさん』がいた。

「正直、迷惑である」

完全装備で寝ているだけでも隣に座りづらいのに、デイパックがさらに座りづらさを加速させている。

つまり、3人がけの座席の2.3人分くらいをその『自宅モードおじさん』が占拠しててしまっていることになる。

「本当に迷惑である」

(まぁ、乗車時間は12分程度なので、座れなくても問題はない)

どこから乗ってきたのかは知る由もないが、この電車、始発から終点まで乗っても一時間もかからない。

なんとも不思議である。

アイマスクはしていても、マスクはしていないのでそこから大体の年齢を想像する、

「わけがない」

そんな見知らぬ『自宅モードおじさん』などどうでもいい。

私は日課である読書をしなければならない。

今、私が読んでいるのは、

「老人と海」

言わずと知れたアーネスト・ヘミングウェイの名作だ。

若い頃に読んだ時は正直、

「微妙」

と感じたものだが、いつしか私も歳をとり物語の中の老人と同じくらいの年齢になり再読してみると、

「やはり微妙だった」

確かに共感するところはいくつもあるし、歳を重ねたからこそ理解できることも増えたのだが、それでもそれほどの作品ともおもえない。

降車駅(終点)間近で読み終えて、降りる準備をしていると、『自宅モードおじさん』はまだ寝ている。

(このまま寝過ごしたら面白いな、この電車は折り返し運転だから・・・)

などと、くだらないことをおもいながら電車を降りて、次に乗る電車へと向かう。

会社に着く頃には『自宅モードおじさん』のことなどすっかり忘れていた。

仕事を終えて帰宅の途についても、思い出すことはなかったのに・・・、

「ウソだろう・・・」

『自宅モードおじさん』は朝とは違う車両ではあるが、またしても私が乗る車両で完全装備のまま寝ている。

一瞬、身体中に鳥肌が立つ。

朝から寝ていたということはないとはおもうが、あまりの偶然に唖然とする。

朝は始発に近い時間だから、人はまばらだったが、今は帰宅ラッシュとまではいかないが車内はそこそこ混んでいる。

そんな中でも『自宅モードおじさん』は朝と同じ完全装備で寝ている。

そして、案の定、その隣には誰も座ってはいない。

「本当に迷惑な男である」

しかし、私の心は少しだけ踊っていた。

私はApple Watchで時間を確認する。

時間的にそろそろ、あいつがくる時間だ。

みんなが敬遠するこの『自宅モードおじさん』の隣の席に絶対に座るであろう、『あの男』を心待ちにしていた。

普段はうっとうしいやつだが、今日だけは違う。

『あの男』というのは、一言で言うと、

「絶対に席に座る男」

である。

わずかな隙間でもあれば強引に体を入れてくる。

その強引な行動に、席を立ってしまう人もいる。

その光景を見たときは、

「ところてんか!」

と、声を出しそうになった。

それでも『あの男』は平然としている。

女子高生の間に強引に割り込んで、女子高生にドン引きされるところを目撃したこともある。

そして、その時がきた。

いつも通り発車間際に駆け込んできて、躊躇することなく『自宅モードおじさん』の隣に、

「どすん」

という音が聞こえるほど乱暴に座る。

しかし、『自宅モードおじさん』は目を覚まさない。

中々の強者か、ただ鈍感なだけか、はた目からは見当がつかない。

しかし、これだけでは済まないのが『あの男』だ。

こいつの迷惑行為は「強引に席に割り込む」だけではない、容赦なくブラインドを上げるという特技も併せ持っていることだ。

『自宅モードおじさん』は朝と同じく頭を窓にもたせかけている。

そして、その瞬間が・・・、

「・・・」

「びくともしねぇ」

完全に頭でブラインドを抑えてしまっている。

これには『あの男』も唖然とした表情を浮かべている。

しかし、次の瞬間、『あの男』が予想外の行動に出る。

強引にブラインドを手で押し上げるという行動をとったのだ。

これには流石の『自宅モードおじさん』も目を覚まさないわけにはいかない。

目を覚ました『自宅モードおじさん』は、すぐに事態を把握して隣の『あの男』を見るなり、

「なんだお前!!」

と、怒鳴ると同時に、すぐさまブラインドをおろそうとしてこちらに背中を向ける。

瞬間、Tシャツの背中に書かれた文字、

「三年寝太郎 起こさないで下さい」

が目に入り、おもわず笑いそうになり、下を向いてどうにかやり過ごす。

ふと、隣に目をやると同じように必死に笑いを堪えている女性が目に入る。

それだけではない、結構な人数が笑いを堪えている姿が目に入る。

しかし、そんなことなど気づきもしないであろう『自宅モードおじさん』は再び眠りについた。

(そのまま三年寝ていろ)

そして、その隣では『あの男』が不満げな表情を浮かべていた。

ちなみに、この日以降、夕方の時間に『自宅モードおじさん』を見ることは無くなったが、今も毎朝同じ時間、同じ場所で寝ている。

本日のBGM : まなざし⭐︎デイドリーム / さかいゆう このBGMは、話の内容とは一切関係ありません。ただ、書いている時に聴いていた、というだけのことです

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