令和の御局様

私の日常

日雇いの仕事中、疲れから集中力が落ちていて、このままではおもわぬミスを起こしかねないので、トイレで休むという苦渋の決断を下す。しかし、トイレの個室にモニターが設置されていて、入室時間がカウントされる仕組みになっているようで「長時間の利用が確認された場合は、係員が確認しに伺うことがあります」とのテロップが・・・、ドキドキしながらも、どれくらいでくるのかギリギリを見極めようと20分ほど滞在してみるも問題なく「今度は30分くらい滞在してみるか」などとふざけたことを考えてしまう・・・そんな私の日常は・・・、

夏もどうにか終わりかけてきた10月初日。

これから、会社は下期へと突入する。

上期もそれなりに忙しかったが、下期は上期を上回る忙しさでないことを願うばかりだ。

「なんて、どうでもいい!」

そう、下期に入って早々に管理部(もうこの部署名だけで威圧感バリバリ)の佐久、じゃない、

「御局様」

から突然のお呼びがかかった。

冗談だと笑ってはいけない、現実にいるから驚きだし、マジで怖い。

普段、社内の事務手続きなどでお世話になっているのだが、

「不備があるとマジで怖い」

まず、御局様以外の人の場合、不備があったらチャットで指摘してきてそれで終わりなのだが、御局様は直接席まで来て不備を指摘してくる。

管理部は私の課とは違う階にあるので、管理部から私の課までは、エレベーターなり階段を使ってくることになるので、正直そこそこ時間がかかる。

にもかかわらず御局様は必ず席までやってくる。

そして、怒鳴るでも怒るでもなく、ただ淡々と不備を指摘してお戻りになられる。

物腰は極めて穏やかではあるが、

「アイスサウナ1よりも冷たい目をしている」

ここで、御局様の容姿に触れておく。

歳は40代後半、身長は高くも低くもなく平均的だが、ポッチャリ体型で、髪型はショートなのだが、サラサラには程遠いゴワゴワ髪で、セットもしているようには見えない、ルックスはお察しで、そして何よりも私服がオッサンそのものなのだ。
(女性事務員は制服を着用するのだが、派手でなければ私服も許可されている)

ほぼ全身UNIQLOコーデなのだが、

「ここまでダサく着こなすか?」

というくらいにファッションセンスが壊滅的ときている。

大体、ストライプ柄のカジュアルシャツをシルエットがダサいジャージみたいなウエストゴムパンツに容赦なく「イン」するのはいかがなものか?

そんなダサい格好にポッチャリ体型だから後ろ姿だけなら完全に、

「近所を散歩しているオッサンにしか見えない」

実際に、これは男性社員の中でも圧倒的多数の同意を得ている。

私もほぼ全身UNIQLOコーデのUNIQLO信者な私からすると、

「お前は○マムラにしとけ!!!」

と、何度口にしそうになったことか。

と、まぁ容姿だけなら完全に面白キャラであるのだが、御局様は若い男性社員には気軽に話しかけたりして笑顔を見せるが、40代オーバーは業務以外完全にスルーを決め込んでいる。

「あっ、わかっているとはおもいますが、御局様は独身です」

数人、お気に入りの男性社員がいて、特に目をかけられている。

そのせいで当人たちが、他の若手社員からからかわれて大迷惑していることはナイショでお願いします。

御局様に呼び出されたことで、

「御局様から呼び出されたけれどなんだろう」

と、同僚に話しかけると、それを聞いた課内の人たちがざわつく。

「なになに」

と、一気に不安を掻き立てられる私。

すると、課長が、

「先月、〇〇さんが同じように呼び出されて、1時間以上戻ってこなくて戻ってきた時には憔悴し切っていて、そのまま午後休を取って、翌日から二日間休んだぞ」

と脅してくる。

〇〇さんが呼び出された時、私は外出していて戻ったのは〇〇さんが帰った後だったから当然、詳細は知らない。

そこで課長に理由を聞いたが、意地悪な笑みを浮かべただけで教えてくれなかった。

「まぁ、早く行ったほうがいいぞ」

と、課長に背中を押されるようにして管理部へと向かう。

「こんなに足が重いのはいつ以来だろう」

管理部が近づくにつれて、じわじわと足元から不安が広がってくる。

「あの、すいません、妄想ですけれど・・・」

と、おずおずと声をかけると、

「隣の会議室で待っていてください、今、資料を用意しますので」

御局様の言いつけ通りに、会議室で待つことにする。

(資料を用意する?)

ますます呼び出された訳がわからなくて、不安がピークに達する。

しばし、会議室でソワソワしていると、パソコン片手にお局様が入ってきて私の目の前の席に鎮座する。

「妄想さん、有給取得率が悪すぎです、課ではトップですし、会社全体でみてもベスト3には入るくらいに悪いです」

前置きなしにいきなり本題を切り出してくる。

しかし、私は内心、

(何だ、そんなことか)

と拍子抜けするおもいで、つい、

「あっまだ上がいるんだ」

と口走ってしまう。

「ふざけないでください」

と、すかさずぴしゃりと言われて、うかつに口を滑らせた自分を叱咤する。

「会社全体の取り組みとして年間有給取得二十日間というのはご存じだとおもいます。会社が休むことを推奨しているのにどうして休まないのか理解に苦しみます。妄想さんみたいに私は仕事が好きではないので、毎年ほぼ有給は使い切ります。休まないことが美徳とされたのは昔の話です。しかも、それが間違った考え方だから、精神的なストレスを抱えてしまう人も出てくるのです。妄想さんみたいなベテラン社員が若手のお手本になってもらわないと困ります、今の妄想さんは悪いお手本となってしまっています。そのせいで、妄想さんの〇〇部の有給取得率は全社中トップです。これは大変に不名誉なことです。今すぐにでも旧態依然とした考え方を改めてください。この間は部でトップの〇〇さんをお呼びしてお話をさせてもらいましたが、すぐにご理解いただき考え方を改めてもらいました。一度に有休を使って下さいとは言いません、月に二日休むだけで十分に社内目標を達成できます。もし、月に二日が難しいのであれば、ゴールデンウィークや盆休み、正月休みなどの皆さんが休まれるときにある程度まとまって取るだけでも十分に目標は達成できるはずです。くどいですが、年間二十日間の有給取得は努力目標ではなくて、努力義務です、そこのところを勘違いしないでください。できたらやるのではなくて、二十日間の有給を取得できるように努めなければならないということです。妄想さんも〇〇さんもそこのところを勘違いなさっているのではないかとおもいます」

まさに、

「立て板に水」

とはこのことなりと言いたくなるくらいに、すらすらと言葉が出てくるものだと感心していると、

「話聞いてますか?」

「はい・・・心して聞いています」

「では、心して二十日間の有給取得に取り組んでください」

もう、ぐうの音も出ないが、ここで一矢報いなければ、

「別にこちらだって、休みたくないわけじゃないですよ、あなたと違ってこちらは取引先の都合も考慮しなければならないんですよ、自分が休みたいからと言って、休みますとはいかないのですよ。そちらこそ、そうした事情を考慮してください。そちらの仕事は会社の事業運営を円滑にサポートすることでしょう、その中には当然私たちも含まれていますよね、だったら、こうして呼び出されて、延々と話されている間、業務が遅滞していることも考えてください。あなたは言いたいことを言ってスッキリでしょうけれど、こちらは課に戻ったら、客先に提出しなければならない書類を作成して、メールしなければならないんですよ、もし、業務時間内に終わらなければ残業してもいいですか? ダメですよね、残業したらしたで、またくどくど言ってきますよね? こんなくだらないことで一々呼び出されていたら、仕事になんないですよ。チャットかメールで十分じゃないですか」

と、こちらも負けじと立て板に水のごとく頭の中で反論する。

「お話は分かりました、課に戻り次第調整して休暇をとらせていただきます」

「よろしくお願いします、くれぐれも年間二十日の有給取得を忘れないでください、私もいちいち忙しい皆様をお呼びだてして、こうして言いたくもないことを言いたくはありませんので、お願いします」

と、表情は穏やかではあるが、やはり「アイスサウナよりも冷たい目」でこちらを見つめている。

まるで、獲物を観察する捕食動物のようだ。

私は、逃げるように管理部を後にして自分の課に戻り、その日のうちに有給休暇のスケジュールを組むと同時に、その休みの日に日雇いのシフトを入れる。

「転んでもタダでは起きない」

と、言う言葉が頭に浮かぶ。

ちなみに、私の勤める会社では、有給休暇の申請は必要ない。

課の「Microsoft Teams」に休暇予定日を打ち込むだけでいい。

後日、御局様が、

「今さらコロナかい!」

ということで会社を休んでいたのだが、症状が長引き、二週間近く休むことになったのだが、社内規定ではコロナやインフルエンザでの特別休暇扱いは五日間までと決められているため、残りは有給を使うしかないのだが、御局様は、「有給を使い切る」とい公言していた通り、有給を使い切り、それでは足りなくて「欠勤」扱いになったのを知って、口元がほころんでしまったのはショナイで。

本日のBGM : Still in Love / Peromu このBGMは、話の内容とは一切関係ありません。ただ、書いている時に聴いていた、というだけのことです

  1. 愛知県名古屋市のサウナ&カプセル ウェルビー栄にある、室温がマイナス25°まで下がるサウナ。 ↩︎

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